2013年3月25日月曜日

"JUST KIDS"






パティ・スミスが書いた、"JUST KIDS"という本を読み終えた。
写真家ロバート・メイプルソープとの思い出を軸に綴られた自伝。

私は今まで、パティ・スミスの曲を一度も聴いたことがなかった。(というか、自伝を読み終わった今でさえまだ聴いていないけど、そこはあまり重要なことだと思っていない。)
この本を読むまで、彼女についての知識は、その名前と、ジャケットを肩にかけたあの有名な写真ぐらいだった。

読んでみようと思ったのは、ある日たまたま、この本について語っている彼女のインタビューを目にしたのがきっかけ。
私が、ほぼゼロに等しい知識をもとに勝手に作り上げていた彼女のイメージは、「なんとなくエキセントリック気取りで、自己主張の激しそうな人(=苦手なタイプのアーティスト)」という、偏見もいいところなひどいものだったんですが、インタビューを読んで、そういう感じの人ではまったくなく、むしろ穏やかな、落ち着いた女性なんだなということが伝わってきたので、お詫びと学習を兼ねて、この人の本を読んでみようと思ったのでした。

読んでみて、エキセントリックなパンクロッカーのイメージは消え、田舎育ちの、芸術に憧れを抱いていたミーハーな女の子が、自分の好きなものに対する誠実な感性を磨き続けて、現在のパティ・スミスになったんだと理解した。

そんな彼女と、あらゆる意味で深いパートナーとなるロバート・メイプルソープという二人の、“アーティストになりたい”という強い気持ちに支配された暮らしは、いつもギリギリで不安定で、めまぐるしい変化とあらゆる固有名詞(トッド・ラングレン、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、アンディ・ウォーホール、テレヴィジョン、ジャニス・ジョップリン…etc)に囲まれていて、読むのに退屈しなかった。

好きな場面もたくさんあった。ロバートがこんなふうに言うところは特に好きだった。
「パティ、僕らみたいに世界を見る奴なんて誰もいないんだよ」

二人の間で誓われた愛情と、それが引き起こす言葉や行動は、とてもとても美しかった。

すべて読み終えてみて強く残ったのは、不思議な親近感だった。
パティとロバート、そして、彼らを取り巻く日常生活や、創作・活動環境は、時代背景や規模が違うにしろ、今の自分や友人たちが送っている暮らしと、大して変わらないなと思った。
みんな自分の好きなものを信じていて、それを守るために犠牲にせざるを得ないものもあったりして、お金のための仕事に行って、時々は両親を安心させることをして、そうやって外で頑張ったら、また自分の中に戻って、限られた時間で作品づくりに向き合う。パティとロバートが送っていた生活も、同じだった。音楽やアートみたいに、正解が明確じゃないものに取り憑かれてしまうと、似たような暮らしになるんだなぁとぼんやり思った。最終的に、パティやロバートのようないわゆる“名声”を手にできるかどうかは、人によるんだろうけど。

そんなふうに、好きなことを第一優先にして、いろんなことと闘っている友人や知人は、世代やジャンルや国籍を問わず身近に何人もいて、"JUST KIDS"を読んだら、彼らのことがますます愛おしくなった。純粋に尊敬できるし、遅れをとらないように自分も常にレベルアップしていかなくちゃと思わせてくれる人たち。
私もパティみたいに、固有名詞モリモリの日記を付けておこうかな…。自分を含め、いつかみんなの名前に特別な価値が生まれることを願いながら…。

S.T.S.