2018年3月6日火曜日

Patrick Doyle


Veronica Fallsのドラマー、パトリックが亡くなった。
死因は公表されていない。だから私たちファンは、彼がなぜ32歳という若さで亡くならなければなかったのか、知ることはできない。ただただ、現実の悲しみを受け止めるしかない。

彼のグラスゴーの先輩であり、Veronica Fallsの前進バンドThe Royal Weの作品を自身のレーベルからリリースしていたThe Pastelsのスティーヴンは、今朝、インスタグラムにこう綴っていた。

“He wasn't an angel but he was a sweetheart. We used to see him around and smile at him before he finally said hello. He was a shy boy but when the bravado arrived it was a spectacular and funny.”

私は、VFの来日公演の際に共演させてもらい、数日間を共有したに過ぎないけれど、そのときに接した彼は、ずっと優しい笑顔を絶やさずに微笑んでいる人だった。

Veronica Falls、そして彼のソロ・プロジェクトであったBoys  Foreverは、2010年代インディ・ポップのお手本のようなサウンドだったと思う。
特にVFは、結成地はロンドンであるものの、パトリックとヴォーカルのロクサンヌがグラスゴーに居たこともあり、脈々と続くその土地のインディ・シーンの正しい血筋を引き継いでいるようなバンドで、私はそういうところが本当に大好きだった。一見とてもポップだけれど、どこかうっすらと陰鬱。
STS“Walk Away”という曲は、彼等のそんなサウンドに影響を受けて作った部分も大きい。

彼の死によって、自分が思った以上にダメージを受けていることに、戸惑っている。
年齢の若さや人柄、あんなに良い音楽を作るミュージシャンが居なくなってしまったということ、そういった要素だけではなく、あまりにも突然に誰かがいなくなるんだということに、とても恐怖を感じてしまった。
ミュージシャンの訃報は、毎年のようにあり、その度に悲しい気持ちになるけれど、パトリックの死は、直接的な思い出があるが故に、強い温度感で自分に迫ってくる。

時々、誰かとの思い出を作るのがこわい、と思うときがある。
好きな人たちと楽しい思い出をたくさん作りたいと思う反面、それがストップしてしまう日がくることに怯えてしまう。人と親しくなることを躊躇してしまう。
「幸福を恐れる者は幸福になれない」と誰かが言っていたけど、私のこの感情も、それと似たようなものなんだろうか。
でも、ネガティブな感情を優先的に扱うのはよくないということもわかっている。
だから、その恐怖を払拭して、というか、いつか悲しみがやってきても、それを支えてくれるだけの存在感を持った思い出や記憶をたくさん作っておきたいと、最近ようやく思えるようになった。

パトリックの訃報は、あらためて私にそれを思い出させてくれたし、そしてやっぱり、彼との思い出や記憶があるという有難さが、悲しみよりも大きく大切なものだと思わせてくれた。
そして彼が届けてくれた音楽も同様に、ずっと私たちの元に残っている。




SHE TALKS SILENCE